塚本虎二 著作集 続六巻 談片録より
- 人間というものは どこまで お目出たいのであろう 君は馬鹿だ と言うとかんかんになって怒るけれど 人間は馬鹿な者だ と言っても どこを風が というような顔をしている
- 君 人間って大して偉いもんじやないよ 誰でもいいから頭を一つ殴って見たまえ十人が十人まできっと怒るから
- 他人の欠点に気づくことは 自分の中に同じ欠点があることの何よりもあきらかな証拠である 小学生が教室で 先生OO君はよそ見をしています! といって先生に告口するのと同じである
- 他人が悪く見えるときには 自分の姿が反射しているのだと思えば 大体間違いなし腹が立ったり
悔しがったりしたら 往来の者に悪口されながら じっと十字架にかかって い給うたキリストのことを考えてみたまえ
それで静まらない気持は多分あるまい 他人の欠点がたやすく批判できる間は それと同じ欠点が自分にもあると思えば大体間違いなし
- 他人の運命をうらやむのは 他人の弁当のおかずを羨ましく思うのと同様 ゲス根性だ 運命はその人に最善に出来ている。
- あと百年生きると思うて仕事をしたまえ しかし、同時に今夜死ぬるかも知れないと覚悟したまえ きっと一番緊張した しかもゆとりのある生活が出来る
- 人生が五十年くらいで済むのは 神様の特別のお情けだよ こんな人問が百年も千年も生きなければならないのなら それこそやり切れない
- 僕はどんな運命でも感謝して受けることが出来るように思う 自分のことを 刑の執行を猶予されている死刑囚と考えているから
- 私には いま憎い人が一人もなく ただ会って話したい 詫を言いたい 赦してやりたいと思う人ばかりになつた そろそろお終いかも知れない
- 馬鹿と言われても 何といわれても 自分には何の損にもならないのに 腹を立てて人はみな自分で自分を傷つけている しかも理屈がちやんと解っていながら これをやるのだから 人間というものは随分変なものである
- 人生が たった 一度しか歩けないように出来ているのは面白いことである 神の恩恵であろう
- ブッブツ言いながら貧乏している人があり 感謝しながら貧乏する人がある 貧乏して悪くなる人もあれば 立派になる人もある 罪は貧乏にはないらしい
- 他人の言うことに 感心せぬ人は偉くなれない
- 他人の美点を見るのは神の心であり 欠点を見るのは悪魔の心である 他人の欠点が見えず ただ美点だけが見えるようになったときに その人はだいぶ神に似てきたのである
- いろいろ承ったけれども 結局君は自分の事だけしか考えていないようだ
- 私をいじめてくれる人は それが敵であっても味方であっても 善意であっても悪意であっても 私にとつてみな益友である こんな 益友 をもっている限り 私は滅びない。
- 理屈は せねばならぬことを したくない時につけるものらしい だから他人に対してよりは むしろ自分に対する言い訳だ
- 誰でも金は使えば減るものと思うているが それは使い方が悪いからで 上手に使えば使うだけふえてゆくものだ どう使えばいいのですか なるだけ損をするように使うこと 人の物を自分のもの 自分のものを人のものと思えない間は 世に金ほど厄介なものはない 無くて困り あってなお困る。
- キリスト教をえらい宗教のように思うから間違うのだ たかが 大工の子が作った 片輪 病人 遊女 相手の宗教じゃないか
- 安心を求めてはいけない 生きている間は不安である 不安は生きていることの証拠である
- 詩人ハイネであったか、「よく考えてみると着物の下は誰でも裸だ と言っているがこのことに気付く人は よほど偉い人だ
- 私の読書哲学はこうであるーーー 本を買わず また読まずに 本以上の真理を握り得る人が上の上である 本を買っただけで これを読まずにその本に卒業する人が上である 金を出して買って 時間をかけて読んで やっとその本が解る人が中で 凡人である 買って 読んで それで解らぬ人が下 買っただけで読まず ただツン読をする人が下の下 買いもせず読みもせず しかも解りもせぬ人が下の下の下である
- いつでも出来るからと言ってしないのは 結局したくないのだ
- 仕事には絶対の満足をもち得なければならぬ もしそれをもち得ないならばまだ本当の仕事ではない
- いつでも出来るからと言ってしないのは 結局したくないのだ
- 仕事には絶対の満足をもち得なければならぬ もしそれをもち得ないならばまだ本当の仕事ではない
- 貴女は貧乏を苦にされるが それは賛沢というものです 立派なお子さんを見て御覧なさい いったい誰のようになればいいと言われるのですか どんなに裕福でも もし一人もお子さんが無かったら ボロを着てもいいから一入ほしいと思い また お子さんが白痴か唖ででもあつたら 乞食してもいいから一入前にしてやりたいとお考えになるに違いありません 金で苦労するくらいですむ人は最大の幸福者です
- 勤勉はもちろんいいが 少しは怠けることも覚えないと本当の仕事は出来ない
- 男にはとうてい女の心は解らない 解ったと思うのは それが何も解っていない一番いい証拠である ある有名な入が 自分には世間の女の心はみな善く解ったが ただ家内の心だけが解らない と言うたとのことである いくら自分の妻であっても 神の創造り給うた一人の人間である限り 彼女の中には 必ず不可知なる神秘の部分がある 何人もこれに触れることを許されない これはただ信頼と愛とによってのみ知ることが出来る そしてこれが夫婦を結びつける最も尊いある物である 夫婦に限らず人と人との関係は皆そうである
- 僕は狼と友達になることが出来ても 自分の罪のゆえに首をくくろうとした経験をもたぬ人と 友達になることは出来ない
- 新聞のべージが倍になったら 読む時間が半分になった どうしてでしよう 粗末に読むからだ 世の中にはこんな原理があるようだ 時間でも金でも学問でも それから信仰でも 多いとかえって役に立たなくなる。
- 金でも健康でも何でも 足りないのは神様が御自分で何とかしてやろうというお考えがあっての事だがら これを放つておくと大儲けをするが 自分でその不足を補おうとすると 大失策をすることが少なくない
- 風呂番が朝三時から起きて たてた風呂に 何もしない私が一番に のこのこ 入るのはどう考えても不都合だが 自分の作った美味しい果実は自分で食べず他人に食ベさせるようにこの世界は出来ているらしい 神様御自身が 風呂番の役をしていられるに違いない
- 世間では頑固な人を強いと思っているが 事実は反対だ 頑固は弱い人の護身術にすぎない 強い人は非を悟れば いつでも頭を下げることが出来る
- 貧しき者 の意味をイエスに尋ねると 自分で貧しい者になってみろ と答えられるに違いない
- 駄目駄目 君はまだ自分に死に切っていない 死んだ人間が煩悶するものか
- いろいろなことを他人に要求するのは 結局自分にそれが出来ないからと見て大体当るようだ
- 同じ苦労をするなら他人のために苦労したまえ 他人のためだと同じ苦労でも気が楽だ そして自分や家のための苦労より 結局自分のためにも家のためにも善い実を結ぶようだ
- 君もせっかく病気になったのだから 苦しむばかりでなく もっとこれを利用したらどうです 信仰の証しをする一番よい機会ではないですか しかも ただ朗らかにして黙って我慢すればよいのだから
- 何はともあれ クリスチャンは明るく朗らかでなくてはいけない そうでない時は病気であると思って 大概間違いはない これが一番容易な また確実な健康診断法である どんなに大きな不幸でも 艱難でも 明るく朗らかでないことの申し訳にはならないむしろ不幸であればあるだけ より明るく朗らかでなければならぬ 福音はすべてに勝ち得る神の力であるから
- あることを いまするのと明日するのとでは ただ一日だけの違いでなく 永遠の違いだ 今は瞬間であるが 明日は永遠の未来だからだ だから今せねばならぬことを明日に延ばすのは 無限の将来に延ばすことだと思わなければいけない
- 結局人間は誰でも宇宙全体が自分を中心に回転していると思っているようだ
- こんな世の中に長く生きていたいとは思わないが まだなかなか死ねそうにない まだこの世への借財が済まずにいるし あの世への土産が出来ていない
- 愛は盲目だと言うけれども 愛する人の判断が一番正しい。
- 人間の力の無限が信じられない人は何も出来ない
- みんなが自分という暴君を持て余しているのだから、悪口の言い会いばかりせず 少しは互いに慰め会ったり 励まし会ったりしなくては!
- 善いことをするのに しなければならないからとか 褒美が貰えるからとか考えてするのは せっかくの御馳走を無理に食べるようなもので 世の中にこれほど馬鹿なことはない キリスト教の道徳もこれと同じで これは救われた者の道徳であって 救わるための道徳ではないのだから実行するのが楽しみでなければならない。
- 家の老人で経験したことだが 五十くらいまでは十年ごとに年を取るが 六 七十となると五年三年になり 八十ともなれば一年で区切られ いよいよ九十となると 一月ごとに弱ってゆくようである だから老人には生きているという事実に対して 無条件に同情と尊敬を払わねばならない ことに不平も言わず にこやかに生きていることは 大きな事業だと思う
- 人生は生きて見ればみるだけ 極めて公平に出来ている やはりこの世ですつかり勘定が合いそうだ
- 人間というものは実に我儘なものである。何でも自分のことだけは例外だと思っている 他人の成功が癪(しゃく)にさわったり その失敗が何となく嬉しかったりする心 それが地獄だ
- ウソも方便というが 一番まずい 結局は損をする方便だと僕は思う
- 経験でわかるべきことを 頭でわかると害になるよ
- 金を有つならもつで 厭になるほどうんと有ちたまえ 無いなら無いで無一文がいい なまじいに少しばかりもっているから不安だ 但し 何も有たないのが一番いい泥棒でも神様でも 無いものを取ることは出来ない
- 誰かが悪人になって他人の罪を引っ被らなければ 問題の本当の解決はつがない
- 人間である以上 その人の中にはきっと天使と悪魔が住んでいるのだから 悪魔の方を見ずに いつも天使を通してその人と交わるのが 交友の秘訣である
- 私が知っているほどの人で ただその人だけにしか見ることの出来ない 尊い この世ならぬ美しいものを見せてくれなかった人は一人もない 人間が神に似せて造られたということはどうも真実らしい
- ある人の聖書に書き込まれたという次のような句が最近の英字新聞に載っていた 人生の秘訣は 好きなことをするのでなく しなければならぬことが 好きになるようにすることである
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